メタバースで注意すべき法律とは?実際の法的トラブルから考察しよう
最近では多くの企業がメタバースを活用することが増えてきています。メタバースを活用することで、ビジネス面でさまざまな効果が期待されます。
ただ、メタバースをビジネスに活用する際には、さまざまな法律に注意する必要があります。
ここでは、メタバースを活用する際に注意すべき法律について解説します。
メタバースの活用を検討している方は、参考にしてみてください。
メタバースで注意すべき法律
メタバースを活用する際には、注意すべき法律がいくつか存在します。
ここでは、以下の法律について解説します。
- 著作権法
- 特定商取引法
- 労働基準法
- 各種業法
著作権法
メタバースでビジネスを行う際に最初に理解すべき法律は、「著作権法」です。
著作権侵害をすると違反者は最大10年の懲役または最大1,000万円の罰金、あるいはその両方に処せられる可能性があります。さらに、法人も最大3億円の罰金を科せられる可能性があります。
さらに、被害者から損害賠償請求がされる可能性もあります。
著作権法を理解していないと、侵害行為を意識せずに著作権侵害をしてしまう可能性があります。そのため、経営者だけでなく、従業員も著作権法を理解することが必要です。
著作権法とは?
著作権法とは、著作物の権利を守り、文化の発展に貢献するための法律です。
著作権法の保護の対象となる「著作物」は、非常に広範であることに注意が必要です。プロの画家が描いた絵やプロの作詞家が作った歌、作家が書いた小説などが創作物であることはもちろん、思想や感情を表現した著作物であれば、一般の幼児が描いた絵や一般人のブログなども著作物となります。
プロではない人が作ったものは著作物の対象ではないと誤解しているケースもありますが、プロか素人かで区別されるわけではないことに注意しましょう。また、創作者がSNSに作品を投稿して公開しているからといって、その作品を許可なく転載してはいけません。
なお、著作権法は一つの権利ではなく、「複製権」や「翻訳権・翻案権」など、さまざまな権利の集合体です。これらの権利をまとめて、「著作権法」と呼んでいます。
メタバースでのビジネスにおける著作権法の注意点
メタバースでビジネスを行う際には、常に著作権法に注意を払う必要があります。
例えば、次のような行為を創作者の許可なく行った場合には、著作権を侵害する可能性が高いでしょう。
- 従業員がアニメキャラクターをアバターに設定して接客する
- 従業員のアバターに流行りの曲を歌わせて集客する
- メタバース上の店舗の壁に、インターネット上で見つけたきれいな風景写真を飾る
創作物を個人的に使用する場合には、原則として著作権を侵害することはありません。たとえば、自宅で楽曲を演奏したり、インターネット上で見つけた写真を印刷して自宅の部屋に飾ることなどは、特に問題ないでしょう。
しかし、メタバース上でビジネスを展開する上では、創作物を利用することは私的利用には該当しません。そのため、他人が制作した創作物を許可なく使用することは、すべて著作権を侵害する可能性があると考えておきましょう。
著作権侵害になるかどうか判断がつかない場合には、あらかじめ弁護士へ相談することをおすすめします。
特定商取引法
メタバースで商品やサービスの提供を行う際には、「特定商取引法」が適用される可能性があることを認識しておくことが重要です。
特定商取引法とは?
特定商取引法は、事業者による不適切な勧誘行為を防ぎ、消費者の利益を保護することを目的とした法律です。
特定商取引法の適用範囲は、訪問販売や特定継続的役務提供など、さまざまな商取引形態を含みます。これには、インターネットを通じて商品やサービスの購入を受け付ける「通信販売」も含まれます。
メタバースで商品を展示したり、アバターを通じて商品やサービスの説明を行い、購入を促す場合、これは「通信販売」に該当し、特定商取引法の適用範囲となると考えられます。
メタバース活用で特定商取引法に注意すべき場面
現実の世界では、顧客が自発的に店舗を訪れて商品を購入する場合、特定商取引法の適用範囲外となります。例えば、顧客が自分で衣料品店を訪れて衣服を購入する場合などです。
メタバースでは、人々が自由に移動できるため、アバターが着用する衣服を販売する店をメタバースに開設し、アバターとなった顧客が自分でその店を訪れてアバター用の衣服を購入することもあります。この場合、上記の例と同じように感じるかもしれません。
しかし、この場合でも、基本的には特定商取引法の規制対象となります。顧客のアバターが自分でメタバースの店舗を訪れたとしても、それはインターネット上の空間であるという事実は変わりません。
特定商取引法の適用範囲になるということは、購入時に、事業者の名前や住所など、特定商取引法に基づく広告表示を行う必要があるということです。
購入時に、メタバースから通常のECサイトに遷移し、そのECサイト内で特定商取引法に基づく広告表示を行えば問題ないと考えられます。しかし、メタバース上で直接商品を購入できる場合、特定商取引法に基づく必要な表示をいつ行うべきか、慎重に考える必要があります。
労働基準法
メタバース内での勤務や、リモートでのメタバースのビジネスに従事させる際は、労働基準法を遵守することが重要です。
労働基準法とは
労働基準法は、労働条件の最低限の基準を設定する法律です。
リモート勤務であっても、自社の業務に労働者を従事させる場合、労働基準法の遵守が求められます。
メタバース活用で労働基準法に注意すべき場面
メタバース内で「出勤」させる場合、労働基準法違反を避けるための注意が必要です。特に、労働時間の管理には注意が必要です。
物理的なオフィスで働く場合、休憩時間や終業時間など、労働状況の把握は比較的容易です。しかし、メタバースでの勤務では、休憩時間や残業時間の管理が難しくなる可能性があります。
その結果、長時間労働により労働者の健康が損なわれたり、残業代の未払いが生じたりする可能性があります。したがって、労働時間の管理システムを整備するなど、適切な対策が必要です。
さらに、VRヘッドセットを使用した長時間の業務は、通常の業務以上に心身への負担がかかる可能性があります。そのため、休憩時間を十分に確保するなど、労働者の健康に配慮することも重要です。
各種業法
メタバースの利用にあたっては、ビジネスの性質に応じた業法への配慮も重要です。
各種業法とは
ビジネスの種類によっては、著作権法や特定商取引法などの一般的な法律に加えて、「宅建業法」、「建設業法」、「古物営業法」などの各種業法が適用されることがあります。これらの業法は、特定のビジネスを行うための許可や認可が必要な場合に存在します。
メタバースでビジネスを行う際には、関連する業法の確認も必要です。
メタバース活用で各種業法に注意すべき場面
各種業法の規制内容は、事業の性質により異なりますが、営業所の責任者の配置や、対面での説明の義務などが課せられていることがあります。これらは、メタバースでビジネスを行う際の障壁となる可能性があります。
例えば、不動産の売買や仲介を行う事業者は、宅建業法やガイドラインに従い、重要事項の説明などを対面で行うことが求められていました。しかし、2022年5月に法改正が全面施行され、現在では完全にオンラインでの対応が可能となっています。
また、営業所に常駐する必要があった宅建士についても、一定の条件下でリモートでも可能となるなど、規制が緩和されました。
しかし、宅建業法が改正されたとはいえ、すべての業法が同様の改正を行っているわけではありません。営業所への常駐が引き続き必要とされている場合もありますので、関連する業法や最新のガイドラインを確認し、法令違反を防ぐための注意が必要です。
実際の法的トラブルの事例とその法的対処の考察
①エルメスのバーキンの模倣ブランド「メタバーキン」が出品される
2021年、NFTの取引プラットフォームで、アーティストであるメイソン・ロスチャイルド氏によって、エルメスの高級バッグ「バーキン」を模倣した「メタバーキン」が出品されました。
しかし、エルメスブランドの許可を得ずに販売されていたため、知的財産権の侵害行為としてアメリカで裁判に発展しました。連邦地方裁判所は、知的財産権の侵害を認め、ロスチャイルド氏に約1750万円の損害賠償を命じました。
メタバース上ではさまざまなデジタルアセットが取引されるため、ユーザーがブランドやコンテンツを模倣したデジタルアセットを無断で作成・販売することで、ブランドやコンテンツの権利者との間でトラブルが発生する事態は今後も増えると考えられます。
さらに、場合によっては、メタバースのプラットフォームを提供する企業にも責任追及がなされる可能性があります。
事例に関連する法律と企業のとるべき対策
メタバース上で、ユーザーが他人のコンテンツを無断で模倣・利用した場合には、著作権などの知的財産権との関係が問題となります。
例えば、コンテンツが著作物に該当する場合は、著作権として保護され、無断利用したユーザーは、コンテンツの作成者から著作権侵害を理由に利用の差止め等を求められる可能性があります。
また、ユーザーが商標として登録されたブランドやロゴなどを勝手に利用した場合には、その商標の保持者が、商標権の侵害を理由として利用の差止め等を求めることができます。
企業としては、利用規約等において、コンテンツの権利が作成者に帰属することを明記し、他社のブランドやコンテンツを無断で利用しないようにユーザーに注意喚起することが重要です。また、ブランドやコンテンツの無断利用をしているユーザーがいないかを随時監視し、適切に取り締まる体制を構築することも効果的です。
②VTuberへの名誉棄損
実際の顔を出さずにアバターなどに扮して配信する「バーチャルYouTuber(V Tuber)」が人気を集めています。しかし、誹謗中傷や悪質なコメントによる「炎上」も多く、トラブルに発展することがあります。
2022年8月に行われた裁判では、アバターへの中傷が「本人への名誉棄損」に当たるという判決が出ました。
被告側は「中傷はアバターに向けられたものであり、女性本人へのものではない」と主張しましたが、裁判所は「アバターの表象を“衣装”のようにまとって活動しており、これは女性本人への中傷に当たる」と結論付けました。
Vtuberはまだ新しい存在であり、法律も未整備な部分が多いです。しかし、今後このようなケースは増加すると考えられ、対応が期待されます。
事例に関連する法律と企業のとるべき対策
アバターのなりすましはプライバシー権や名誉権の侵害として扱われることがあり、被害者は精神的苦痛や経済的損失に対する損害賠償を請求できるだけでなく、誤解を招く行為や悪質な行為による名誉の傷つきに対しても法的措置を求めることが可能です。
③「NBA 2 K」「WWE 2 K」キャラクターのタトゥーの著作権問題
た、ゲーム内キャラクターのタトゥーデザインが問題となった事例もあります。「NBA 2K」や「WWE 2K」はプロバスケットボールやレスリングをリアルに再現したゲームで、レブロン・ジェームズのような実在のプロスポーツ選手をキャラクターとして選んでプレイできます。
これらのキャラクター描写は、タトゥーなどの細部にまで及びますが、タトゥーは著作権で保護される視覚芸術作品です。タトゥー・アーティストがこれらのゲーム制作会社を著作権侵害で訴えた事件では、ニューヨークの連邦裁判所がゲーム内でのタトゥーの使用はほとんど認識できず、市場慣行に基づき黙示的にライセンスされていると判断しました。
一方、最近のWWE 2Kのキャラクターのタトゥーに関する同様の訴訟では、イリノイ州の連邦裁判所の陪審員がフェアユースを否定し、著作権侵害を認めてゲーム制作会社に3,750ドルの損害賠償を命じました。
これらの事例は、メタバースで使用されるコンテンツの権利クリアランスが、他の形態のデジタル配信の権利クリアランスよりもはるかに困難であることを示しています。
事例に関連する法律と企業のとるべき対策
オンライン上で著作権を侵害するコンテンツを発見した場合、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づいて、その削除をプラットフォーム運営者に要求できます。
DMCA(デジタルミレニアム著作権法)とは、アメリカの法律で、オンライン上の著作権侵害に対応するための規定を含んでいます。この法律の下で、著作権者は侵害コンテンツの削除をプラットフォームに要求することができます。
DMCAは著作権者が侵害コンテンツの削除通知を送信する手続きを定めており、運営者はこれに従う義務があります。
侵害者が異議を唱える場合、反通知を提出でき、著作権者は裁判で侵害を証明する必要があります。DMCAはオンライン著作権保護のための重要な法制度です。
メタバースでの法律面での課題点
現在、メタバースでは法律面での課題点がいくつか存在します。
ここでは、以下の課題点について解説します。
- 法整備がされていない
- 判例が少ない
- 発生する問題の定義
法整備がされていない
メタバースは以前から存在はしていましたが、普及し始めたのは最近のことです。その結果、メタバースでのビジネス活動に対応する法的な枠組みがまだ整備されていない状況が見受けられます。
現実世界では合法的なビジネスでも、メタバース上で行うと法律に違反する可能性があります。そのため、メタバースで新規ビジネスを立ち上げる際には、事前に法律家に相談し、法的リスクを確認しておくことが重要です。
判例が少ない
メタバースでのビジネス展開は、まだ新しい取り組みであるため、何か問題が発生した場合、参照できる判例があまり存在していません。
さらに、現実世界での類似事件に関する判例が、メタバース上での事案にそのまま適用できるわけではありません。メタバースでビジネスを行う際には、予期せぬ問題に対応できるよう、IT関連に詳しい法律家との連携体制を整えておくことが望ましいです。
発生しうる問題の定義
総務省のAI分科会では、メタバース空間で発生する問題として以下の例が挙げられました。
- 現実世界のデザインを仮想空間上でアイテム化すること
- 他者のアバターのなりすまし
- 現実世界の他人の顔を自分のアバターに貼る行為
- アバター間の嫌がらせ
また、経済産業省の「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業」では、メタバースの問題を「12類型」に分類しています。
メタバースのリスクやデメリットは次の通りです。
- 仮想オブジェクトに対する権利の保護
- 仮想空間内における権利の侵害
- 違法情報・有害情報の流通
- チート行為
- リアルマネートレード(RMT)
- 青少年の利用トラブル
- ARゲーム利用による交通事故やトラブル
- マネーロンダリングや詐欺
- 情報セキュリティ問題
- 個人間取引プラットフォームにおけるトラブル
- 越境ビジネスにおける法の適用に関わる問題
- 独占禁止法に関わる問題
メタバースは「現実世界の再現」という側面があり、現実世界でのトラブルが仮想空間でも発生する可能性があります。しかし、法整備が追いついていないため、トラブルに発展するリスクが現状として存在します。
メタバースの今後の法整備に期待!
ここまで、メタバースで注意すべき法律と現行法の課題点について解説しました。
この記事の内容は以下の通りです。
- メタバースで注意すべき法律
- 著作権法
- 特定商取引法
- 労働基準法
- 各種業法
- 実際の法的トラブルの事例とその法的対処の考察
- メタバースでの法律面での課題点
- 法整備がされていない
- 判例が少ない
- 発生しうる問題の定義
企業がメタバースで活動する場合は、さまざまな法律に注意する必要があります。
現在は法整備が不十分という課題はありますが、現行法に注意しながらメタバースでの活動をしていく必要があるでしょう。