メタバースの保険業界における可能性とは?活用事例やメリットも紹介
近年、さまざまなビジネス業界でメタバースの導入が進んでいます。
保険業界でもそのメリットを生かした活用が進んでおり、今後もますます多くの企業が導入を進めると思われます。
本記事では、メタバースの保険業界における活用メリットや取り組みなどを紹介していきます。
メタバースとは?
メタバースとは、インターネット上に創り上げられた3次元の仮想空間のことです。
その仮想空間の中では、自分の分身となるアバターを使い、会議に参加したり、旅行をしたり、買い物をしたりして自由に行動できます。
3Dのリアルな世界の中で、自分の意思で活動できることから、没入感を得られるのが特徴です。
メタバースという言葉は、「超越」を意味する「メタ(meta)」と「宇宙、万物」などを意味する「ユニバース(universe)」が語源となっており、1992年に発表されたニール・スティーブンソン作のSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて使われた造語です。
メタバースは、主にゲームに用いられていますが、近年ではビジネス活用も進み、今後の可能性に期待されている分野です。
保険業界におけるメタバースの活用とメリット
現在、メタバースはさまざまな業界で導入・活用されています。
中でも、保険業界では、積極的な活用が進んでおり、多くの保険会社がいろいろな形態でメタバースを取り入れています。
ここでは、保険業界におけるメタバースの活用の方法とそのメリットを紹介します。
- 新たな営業手法としての活用
- メタバース内のリスクに対する保険商品の開発
- アバター接客の導入
1つずつ見ていきましょう。
1. 新たな営業手段としての活用
近年のコロナ禍の影響により対面営業が大きく制限されたことから、どの業界でもさらなるオンライン化が進んでいます。
保険業界でも、窓口営業や訪問営業のような対面よりも、オンラインを利用しての相談や加入が主流になりつつあるのが現状です。
すでに、一部の保険会社ではメタバースを導入した営業形態を取りいれており、今後は、スマホシフトと同様にメタバースシフトが予想されるでしょう。
メタバースを営業手段として活用するメリットを挙げてみましょう。
- 保険会社と顧客が実際に対面しているかのように相互にコミュニケーションがとれる
- 火災や地震などの災害リスクをリアルな仮想体験を通じて伝えられる
このようなことから、従来の営業手段よりも高い成約率となる可能性も考えられるでしょう。
2. メタバース内のリスクに対する保険商品の開発
メタバースのような仮想空間で人と人とが交流し、それぞれがアクションを起こすことに伴って、当然新たなリスクが生じてきます。
例えば、商取引にまつわるトラブルや、コミュニケーションの中での名誉棄損など、さまざまなリスクがあげられます。
保険業界においては、そうした事態に対応すべく、メタバース上のリスクに特化した保険商品の開発・提案が求められるでしょう。
加入者は、メタバース保険商品でリスクへの保障がなされることで、安心してメタバース空間で交流したり、ビジネス構築に取り組むことができます。
一方、企業側も新たな顧客を得ることができるため、双方にメリットのある取り組みと言えるでしょう。
3. アバター接客の導入
アバター接客の導入も、企業と顧客のどちらにもメリットのある活用法です。
- 質問・相談に対して迅速的確な回答ができる
- 人的ミスや情報漏洩の軽減
- 24時間体制の接客が可能
- 人件費削減
- 対面接客による心理的負担を軽減
メタバース上で顧客は、アバターと実際に対面しているかのような感覚で質問・相談ができ、迅速・的確な回答を得ることができます。
また、保険の対面営業に対して無理な勧誘のイメージを持っている方でも、アバターででの接客であればそうした心理的負担を感じることもなく気楽に会話できます。
企業側においても、アバター接客の導入による顧客の満足度の向上や売り上げのアップ、人件費削減などのデータが実証されています。
保険業界におけるメタバースの導入事例4選
1. メタバース事業に積極的に参入「東京海上日動」
東京海上日動は、メタバース事業に積極的に参入している保険会社です。
主な導入事例をまとめてみましょう。
- JR東日本のメタバース空間「Virtual AKIBA World」に出展
- 疑似体験で学べる防災教育教材の提供
- NTTコノキューのメタバース専用保険の提案
1つずつ順に見ていきます。
JR東日本のメタバース空間「Virtual AKIBA World」に出展
東京海上日動火災保険および東京海上日動あんしん生命保険は、JR東日本が2022年に提供をはじめたメタバース空間「Virtual AKIBA World」に、「保険相談所」と「空飛ぶカーレース」を出展しています。
東京海上日動VAW保険相談所
東京海上日動VAW保険相談所では、保険代理店のアバターが対応します。
保険に関する相談ができるだけでなく、オンラインを利用したその場での保険加入も可能です。
対面による保険相談にありがちな顧客の心理的負担を減らし、気軽な相談・検討ができることから、新たな顧客の加入が見込めると予想されています。
VAW空飛ぶカーレース
VAW空飛ぶカーレースは、メタバース空間の中に保険の知識を盛りこんだゲームコンテンツです。
ゲーム内では、架空の損害保険や生命保険を利用することで勝敗を有利に進めることができ、楽しみながら保険の特徴を理解できます。
疑似体験で学べる防災教育教材の提供
東京海上日動は、2023年2月には「NTTコノキュー」と提携して、メタバース空間を利用した防災教育のサービス開発・提供を進めています。
災害体験AR
「災害体験AR」は、学校や自治体に向けて開発されており、地震や津波などの災害を疑似体験しながら防災を学べる教材コンテンツです。
※AR(Augmented Reality アグメンティッド リアリティ ):実在する風景を立体的に読みとり、仮想の視覚情報を重ねて拡張する技術のこと。
スマートフォンやタブレットから簡単に体験でき、防災への意識を高めるとともに、災害への備えや災害時の適切な行動をリアルに仮想し学ぶことが可能でしょう。
NTTコノキュー メタバース専用保険の提案
また、東京海上日動は、NTTコノキューのメタバース内で発生するリスクを対象にした専用保険の開発・提供にも取り組んでいます。
両社で、メタバースに関わるリスクの実態調査や責任のあり方などを研究してルール整備を行っており、メタバース空間において予想されるリスクへの対処につながるサービスを開発しています。
例えば、コノキューが開催するメタバースイベント等へのリスクマネジメントの提供や、不正アクセス等の検知、トラブルの事前予測やアラートなどがその内容です。
メタバースを安心・安全に利用できる環境整備が進められています。
2. バーチャルマーケットに保険業界初出展「三井住友海上火災保険」
三井住友海上火災保険は、2022年3月に「Metaverse Project」の立ち上げを発表し、8月には、世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット2022 Summer」に保険業界初出展を果たしています。
「バーチャルマーケット2022 Winter」では、株式会社HIKKYが独自開発したメタバース開発エンジン「Vket Cloud」から作成されたメタバース空間に出展。
「Vket Cloud」は、スマホやタブレットから手軽にアクセス可能で、メタバース上で損害保険の仕組みを楽しく学びながら、火星への宇宙旅行を疑似体験できる空間を提供しています。
ミライデザインメタバース
三井住友海上は、中部電力ミライズ、ミライデザインパワー、Urthの3社とともに、つくば市の地下空間と熱供給設備を再現した「ミライデザインメタバース」のサービスにも参入しています。
このメタバースのサービスは、未来のエネルギーについて考えることがテーマとなっており、地域の冷暖房システムをはじめとする将来のエネルギーシステムについて、つくば市民と共に考えるコンテンツです。
その中で三井住友海上は、つくばエリアの店舗などで利用できるデジタル地域通貨を活用した保険募集のUI・UXのあり方を実証しています。
3. 国内初のメタバース専用保険を開発「あいおいニッセイ同和損保」
あいおいニッセイ同和損保は、2022年7月よりメタバース空間の開発に着手しました。
2023年2月には、DMMグループのアイデアクラウドと共に、国内初のメタバース専用パッケージ保険を共同開発しています。
そして同年5月からは、DMM.comが提供するメタバース空間を活用した「ADigital space」を公開し、積極的な導入を進めています。
「ADigital space」では、同社社長、新納啓介氏のアバター「ボビー」が会社の取り組みを紹介する内容になっており、よりメタバース空間が身近に感じられるコンテンツとなっています。
4. さまざまな他企業との提携「損保ジャパン」
2022年5月、損保ジャパンは、ANAが手掛けるメタバース空間「ANA GranWhale」に参画しています。
「ANA GranWhale」は、ANA NEO株式会社が運営・開発を担い、新しい旅の体験価値を創造するために考案されたメタバースのプラットフォームです。
同年11月には、三菱UFJ銀行が、金融サービスのあり方を検証するべく協業し、他にもパソナグループ、京都市、北海道なども提携しています。
この中で損保ジャパンは、保険商品の開発や、新サービスの可能性を検証するための実証実験を行うとし、保険業界国内初の試みに取り組んでいます。
デジタルツイン社会における、安心・安全なライフスタイルを目指す試みとして注目されています。
ジャパン・メタバース経済圏
また、2023年2月、損保ジャパンを含む金融10社※が「ジャパン・メタバース経済圏」の創出に向けて、共通メタバース基盤「リュウグウコク(仮)」を立ち上げました。
※JCB、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三菱 UFJ フィナンシャル・グループ、りそなホールディングス、損害保険ジャパン、凸版印刷、富士通、三菱商事、TBT Lab
「リュウグウコク(仮)」は、独自のファンタジーな世界観を持つRPGの要素を取り込んだメタバース基盤となっており、ユーザーは、異世界を転々と旅しながらさまざまなサービスやコンテンツを楽しむことが可能です。
その中で、損保ジャパンは、メタバースを含むWeb3時代に向けたリスク分析および保険開発を担っています。
保険業界におけるメタバースの導入・活用はさらなる可能性を秘めている
いかがでしたか?
メタバースの保険業界における活用事例とそのメリットなどを紹介しました。
本記事の内容で大切なことをまとめると次のとおりです。
- 保険業界におけるメタバースの活用方法は「営業手段」「メタバース専用保険商品の開発」「アバター接客」の3つ
- メタバースを導入することで得られる顧客側のメリットは、対面接客による心理的負担の軽減や24時間体制の接客など
- 企業側のメリットは、成約率アップや人件費削減など
- 「東京海上日動」や「三井住友海上火災保険」などの導入事例がある
コミュニケーションのあり方が多様化していく中、今後、様々な業界でさらなるメタバースの活用が進むことが予想されます。
メタバースの世界は、保険業界において、ビジネスチャンスの展望や可能性を秘めた分野と言えるでしょう。