メタバースの医療業界における活用方法とは?メリット・デメリットも紹介
エンターテイメントのイメージが強いメタバースですが、近年さまざまな業界においてそのメリットを生かした活用が進められています。
なかでも、医療業界では可能性ある分野として注目を集めています。
本記事では、メタバースの医療現場での活用について紹介していきます。
メタバースとは?
メタバースとは、インターネット上に創り上げられた3次元の仮想空間のことです。
3Dのリアルな世界の中で、自身の分身となるアバターを使って自分の意思で行動できることから、没入感を得られるのが特徴です。
ちなみに、メタバースという言葉は、「超越」を意味する「メタ(meta)」と「宇宙、万物」などを意味する「ユニバース(universe)」が語源となっており、1992年に発表されたニール・スティーブンソン作のSF小説「スノウ・クラッシュ」で初めて使われた造語です。
ゲームをはじめエンターテイメント市場のイメージが強いメタバースですが、近年ではビジネス活用も進み、今後の可能性に期待されている分野です。
メタバース医療の活用メリット
近年、医療分野におけるメタバースの活用が注目されています。
その理由は、医療現場にとっても患者にとってもさまざまなメリットがあり、新たな可能性が評価されているためです。
ここでは、そのメリットを5つ紹介します。
- リアルタイムでの遠隔治療
- 地域による医療格差の解消
- 心理的障壁の軽減
- 医師や看護師への実践的な学びの提供
- 体験型リハビリトレーニング
1つずつ具体的に見ていきましょう。
1. リアルタイムでの遠隔治療
メタバースは、病院への移動が難しい患者の治療や、手術の効率化をはかるなどの活用メリットがあります。
実際に、手術支援ロボットを使い、リアルタイムでの遠隔操作に活用した導入実績も報告されています。
具体的には、医師は、3Dの画像を見ながら、内視鏡カメラと手術器具を搭載したロボットのアームを、コントローラーで遠隔操作して手術を行います。
これによって医師は、手術部位を拡大して確認できたり、直観的に操作ができるなどのメリットがあります。
また、患者側も、感染症のリスクが軽減されたり、術中術後の出血が少ないなどのメリットがあります。
2. 地域による医療格差の解消
医療業界における課題として、都市部と地方とでは受けられる医療の質に差があったり、医師不足の地域があるなどの現状が続いていることが挙げられます。
そうした問題に対し、メタバースが医療現場に導入されることで、その解消効果が期待されています。
仮想空間内では世界中の人々とリアルタイムで繋がることができるため、遠隔地にいる患者と医療専門家が繋がることができます。
そのため、現地での医療対応が難しい地域でも、必要な時に必要な医療サービスを提供でき、地域格差の解消に活用できるでしょう。
3. 心理的障壁の軽減
メタバース空間では、コミュニケーションの特徴として、自分自身の分身のアバターを使うことが挙げられます。
自身の顔を出さずにコミュニケーションをとる状況では、自己開示がしやすいと言われています。
例えば、精神科で心のうちを話すことが重要視されるような場合に、このアバターを使ったコミュニケーションは非常に有効です。
患者が心を開きやすく、相談しやすい環境を提供できるため、大きな活用メリットがあるでしょう。
4. 医師や看護師への実践的な学びの提供
医師や看護師を目指す学生や研修医の学びの場でもメタバースの活用は有効です。
いままで、現地で行っていた研修・実習をメタバースを活用することで、距離的な障害にとらわれず、どこにいても学ぶ機会を得られます。
そのうえ、仮想空間内で没入感のある状態で患者への治療技術を学べるため、高度な技術の習得に繋がるでしょう。
5. 体験型リハビリトレーニング
メタバースは、アバターを使った身体の動きの連動性や没入感が特徴です。
その特徴を活かして、リハビリが必要な患者に向けて体験型トレーニングへの活用も進められています。
患者のリハビリトレーニングを効率化できるとともに、メタバースの没入感を利用したモチベーションの向上にもつながります。
また、今までトレーナー個人によって判断されていたリハビリの効果検証が、デジタルデータ化できるため、リハビリのプログラム改善にも活用できるでしょう。
医療業界におけるメタバースの活用事例
ここれは、メタバースの医療業界における2つの活用事例を紹介します。
まとめると次のとおりです。
- 順天堂バーチャルホスピタル
- Holoeyes
1つずつ具体的に見ていきましょう。
1. 順天堂バーチャルホスピタル
順天堂大学病院では、日本アイ・ビー・エム株式会社とともにメタバース上に「順天堂バーチャルホスピタル」を構築しています。
同病院を細部まで模した3Dモデルは、国内でもまだほとんど例がなく、注目されている導入事例です。
これによって患者側は、実際の来院前にバーチャルで病院を体験でき、予約や問診、会計などもメタバース上で行う取り組みも考えられています。
また、外出が困難な患者に対してのコミュニティ作りや治療の疑似体験、メンタルヘルスケアなどの可能性も目指しています。
2022年に立ち上がったこのプロジェクトは、段階を追ってまだまだアップデートされることが期待されています。
2. Holoeyes
「Holoeyes」は、臨床医療や医療教育のためのバーチャルリアリティソフトウェアを開発・提供している企業です。
これにより、今まで二次元画像で行っていた術前の人体のシュミレーションを、3次元のVRで利用できるため、より実際に近い形で視覚的に学ぶことが可能です。
また、遠隔地にいる複数人が、自身のアバターを使ってリアルタイムに体験共有ができる「Holoeyes VS(バーチャルセッション)」によって、CTやMRIの3Dデータを見ながら術前カンファレンスや手技のシュミレーションなども可能です。
他にも、研修医や若手の医師に向けた医療教育への活用としてスマートフォン用アプリケーション「Holoeyes Edu」も開発されています。
基礎解剖や手技動画をVRで体験することができ、今後もさらなる開発が期待されています。
メタバース医療の課題
メタバースを医療業界で活用することにはたくさんのメリットがありますが、同時に解決すべき課題もあります。
- 安全性の確保
- 個人情報の保護
ここでは、上記の2つの課題について詳しく見てみましょう。
1. 安全性の確保
まず、メタバースを医療現場で活用するにあたって、もっとも重要になってくるのが安全性です。
いくら便利であっても、医療において安全性の保障がないことは全く価値がありません。
実際に医療現場では、再三にわたる厳重なチェックのもとでの医療行為が行われており、それゆえに患者は安心して利用できます。
メタバースの安全性の課題は、医療従事者だけでなくメタバースを提供する事業者も真剣に受け止め、互いに連携して確実に安心・安全を確保できる環境を整えていく必要があります。
2. 個人情報の保護
2つ目の課題は、患者の個人情報をどのように保護するかということです。
メタバースはオンライン上で提供される空間のため、サイバー攻撃のリスクは切り離せない問題でしょう。
もしこうした外部からの侵入があった場合、医療行為の中断の恐れはもとより、患者の個人情報の流出なども考えられます。
医療現場では、さまざまな面において繊細さと複雑さが伴うため、そうした外部からの侵入に対してのな保護環境を整える必要があるでしょう。
また、問題が生じてしまったことに対する保障や法の整備なども大切な課題です。
メタバース医療は新たな可能性を秘めている
いかがでしたか?
メタバース×医療をテーマに、その活用方法のメリットや課題、導入事例などを紹介してきました。
本記事のポイントをまとめると次のとおりです。
- メタバースとはインターネット上に創り上げられた3次元の仮想空間のこと
- 医療分野におけるメタバースの活用が注目されている
- メタバース医療には「リアルタイムでの遠隔治療」「地域による医療格差の解消」などのメリットがある
- 活用事例として「順天堂バーチャルホスピタル」や「Holoeyes」などがある
- メタバース医療の課題として「安全性の確保」「個人情報の保護」などが挙げられる
メタバース医療はさまざまな業界から注目されている将来性のある分野です。
メタバースを医療に活用することで、だれもが必要な医療を必要な時に受けることが可能になります。
さらに、5Gの導入により、メタバースが医療現場にもたらす影響はより大きくなっていくことが予想されるでしょう。
今後は、そのメリットを生かした活用が期待されるとともに、安全性などの重要な課題は、非常に慎重に解決されることが求められています。